
2025年は「AIエージェント元年」です。大規模言語モデル(LLM)の進化に伴って、日本企業でも業務効率化・顧客対応・データ分析支援など、さまざまな領域での活用が進んでいます。AIエージェントは、業務効率向上や顧客満足度の改善、ヒューマンエラーの削減など大きなメリットをもたらす一方で、導入までの準備プロセスや導入後の運用体制の構築など、いくつものハードルが存在します。
本記事では、AIエージェントの基本的な仕組みや特徴、導入に向けて押さえておくべき課題、さらに導入後の運用・保守フェーズで重要となるポイントについて解説します。
AIエージェントとは?
AIエージェントは、設定した目標に応じて自律的に思考し、行動しながら、外部ツールやデータと連携して業務を遂行する仕組みです。単なる業務プロセスの自動化にとどまらず、意思決定の支援や組織の知識管理にも活用できます。AIエージェントによって業務効率化を加速させることで、従業員がより創造的な業務に集中できる環境を整えられるほか、夜間や休日など従業員の対応が困難な時間帯に稼働させることで、ビジネス機会の損失リスクを低減することが期待できます。
生成AIやRPAとの違い
AIエージェントは、目標達成のために自律的に行動し、外部ツールや環境と連携して継続的にタスクを実行する仕組みです。一方、生成AIは、与えられた入力から文章や画像などのコンテンツを生成するモデルです。AIエージェントは生成AIを一つの機能(部品)として活用しながら、より広い範囲のタスクを自律的に実行できるという点で異なります。
また、RPAは、定型的で手順が固定された作業を自動化する仕組みであり、変化への対応には弱い傾向があります。AIエージェントは学習や推論で適応しますが、RPAは手順の自動化に特化している点が違うといえるでしょう。
AIエージェントで効率化できる用途や活用シーン
AIエージェントが活用できるシーンの一部を紹介します。
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社内業務自動化
例
社内の問い合わせ対応、支払処理の自動化
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データ分析支援
例
意思決定支援やデータ分析
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顧客対応
例
社外の問い合わせ、ヘルプデスク業務、24時間サポート
AIエージェント導入までの課題
AIエージェントは業務効率化や高度な意思決定支援を実現する一方、導入までには多くの課題があります。ここではAIエージェント導入までに直面する主な課題をご紹介します。
データの品質
AIエージェントが扱うデータの品質は重要です。例えば、データが古い・誤っている・偏っている・形式が揃っていない場合、誤った判断やタスクの失敗につながります。そのため、AIエージェントを導入する際には、適切なデータ品質を確保するとともに、その品質を継続的に維持するための運用体制を整える必要があります。
セキュリティ
AIエージェントが学習や業務を遂行する過程では、個人情報、顧客情報、従業員情報、財務諸表、取引データなどの機密情報にアクセスする場合があります。これらのデータは、ユーザーからの指示(プロンプト)に悪意ある命令を紛れ込ませる「プロンプトインジェクション」によって外部に漏えいする可能性があります。また権限設定の不備により、本来は閲覧権限のない内部関係者に対して情報が開示されてしまうリスクも考えられますので、考慮が必要です。
AIの過信・ハルシネーション
AIエージェントは高い精度で判断や自動化を行う能力がありますが、必ずしもすべての状況で正しい判断を下せるわけではありません。特に、学習データの偏りや不十分な情報に基づく場合、誤った結論や不適切な行動をとる可能性があります。また、AIが自動的に行う処理の範囲や限界を理解せずに運用すると、予期せぬ結果や重大な損失を招く恐れがあります。このため、ガバナンスや運用ルール、定期的な精度評価を行うことで、AIの過信によるリスクを最小化することが求められます。
既存システムとの連携の複雑さ
企業内には基幹システムやデータベース、クラウドサービスなど多様な環境があり、AIエージェントが円滑に動作するにはデータ形式やAPI仕様、権限管理の調整が必要です。データの不整合や運用制約により、変換処理や動作範囲の制限が発生し、開発や運用コストが増大します。さらに、システム更新ごとに連携設定を見直す必要があり、継続的なメンテナンスも考慮が必要です。これらにより、既存システムとの整合性を考慮した包括的な設計が不可欠です。
専門人材の不足
AIエージェントは設計、構築、運用、改善まで幅広い知識とスキルを必要とします。具体的には、機械学習や自然言語処理の理解、データ前処理やモデル評価、API連携やセキュリティ管理など、多岐にわたる技術的専門性が求められます。また、業務に即したタスク設計やガバナンス体制の構築も不可欠であり、単なるITスキルだけでは対応できません。
但し、こうした専門人材は市場でも非常に限られており、企業内での確保や育成は容易ではありません。さらに、導入後もモデル更新や運用監視、精度改善などの継続的な作業が必要であり、担当者の負担が大きくなる傾向があります。このため、専門人材の不足はAIエージェントの導入規模や効果に直接影響する重要な課題といえるでしょう。企業は社内育成や外部パートナーの活用を含め、長期的な人材戦略を組み立てる必要があります。
AIエージェント導入後の課題(陳腐化)
導入時の課題でも触れたとおり、AIエージェントは導入して終わりではなく、利用状況に応じて継続的に改善・改修を行うことで、初めて価値を維持できます。これらを怠ると、AIエージェントの乱立、稼働しないエージェントの放置、古い仕様のまま使われ続けるエージェントの発生などにつながるため、AIエージェントの運用・保守まで見据えた体制整備が必要です。
AIエージェントが陳腐化・形骸化してしまう主な原因として、以下が挙げられます。
陳腐化の主な原因
- FAQや商品情報など、基盤となる知識や業務要件の変化
- 時間の経過に伴うユーザーの質問傾向の変化
- AIの応答精度が徐々に低下する「ドリフト」現象
- 外部APIや連携システムの仕様変更
- セキュリティの脆弱性や設定ミスの発生
- 技術進化への追随不足
- 運用監視の不備やトラブル対応の遅れ
- 属人化や担当者の離職
これらに適切に対応しないまま放置すると、AIエージェントの誤回答や動作不良が増加し、最終的にはユーザーに利用されなくなる可能性があります。AIエージェントの効果を最大限に引き出すためには、運用・保守を含めた継続的な改善体制を前提とした導入計画が不可欠です。
運用・保守体制の構築のポイント
運用・保守体制を構築する際、社内リソースが不足している場合、外部人材やベンダーの活用も有効な手段です。企業は「内製」と「外注」のどちらか、またはその組み合わせを選択することになります。
内製のメリット・デメリット
運用や保守体制を内製で行うメリットとしては、業務内容や社内システムを深く理解したうえで運用できることが挙げられます。また、それに関連して、軽微な調整や修正作業、モデルやデータの更新に自社内で迅速に対応できることが挙げられます。
デメリットは、AI運用に必要な専門人材の確保が難しいこと、技術教育やスキル維持のためのコストが発生することです。さらに、担当者の離職によって情報漏洩やブラックボックス化のリスクが生じる可能性があり、人件費なども考慮に入れる必要があるかもしれません。
外注のメリット・デメリット
アウトソーシングするメリットとしては、大きく三つ挙げられます。一つ目は、専門企業が自社に代わって最新情報を常にチェックし、モデル更新をリードしてくれることです。二つ目は、AI人材について自社で担当者を確保する必要がない点です。三つ目は、専門的な技術力とノウハウを活用できることです。
デメリットとしては、仕様変更や追加改修などの運用コストがかかること、AIエージェントの運用に関するナレッジが社内に蓄積されないこと、自社の業務仕様やノウハウを外部に開示する必要があることなどが挙げられます。
まとめ
AIエージェントの導入フェーズから運用フェーズまでの課題などについてご紹介しました。AIエージェントの導入には大きなメリットがありますが、継続的な運用・改善体制がなければ効果は長続きしません。技術や業務の変化に合わせてAIエージェントを成長させることが重要です。
JBサービス株式会社は、お客様の変化に応じたAIエージェントの支援に寄り添います。AIエージェントの運用・保守でパートナー企業をお探しであればお気軽にご相談ください。