「直す」から「支える」へ。製造業アフターサービスの新しい価値とは

アフターサービスのイメージ

昨今、製造業のアフターサービスに対する常識は大きく塗り替えられようとしています。製造業に求められているのは、「直す」だけではなく「支える」という新たな価値の創出です。単なるアフター対応ではなく、サービスを止めない「イネーブリング」という発想が、製造業に新たな競争力と収益源を生み出す鍵となるのです。

本記事では、製造業のアフターサービスの新しい価値とは何か、イネーブリングサービスがもたらすメリットについて解説します。

なぜ今、製造業のアフターサービスに変革が求められるのか?

現代の製造業におけるアフターサービスでは、従来のような「故障したものを直す」「止まったら駆けつける」といった反応型(リアクティブ)保守のモデルが限界を迎えています。その背景には、市場の変化や顧客の期待値の変化、競争の激化があり、製造業のアフターサービスは変革を求められています。

市場の変化

現代の顧客は、モノの所有からサービスの利用へと価値観を変化させています。代表的な例としては、サブスクリプションモデルの普及が挙げられます。顧客は製品ではなく、「製品がもたらす成果」を購入するようになりました。これにより、製品が故障・停止することによる機会損失は従来以上に深刻な影響を及ぼしています。顧客にとって重要なのは、製品が修理されることではなく、製品が止まらず安定的に稼働し続けることなのです。

顧客の期待値の変化

昨今のビジネス環境において、「ダウンタイム(サービスの停止時間)」がビジネスに与える損失は甚大です。配膳ロボットで例えると、一時的な停止によって配膳ができないという直接的な損失だけでなく、顧客体験の悪化や信頼の低下、追加の人件費発生といった間接的な損失が生じます。そのため顧客は、製品に対して「止まらないこと」を当たり前の前提として期待するようになっています。

競争の激化

昨今の製造技術の標準化によって、多くの製品が高い品質水準に達している状況です。製品単体では差別化が難しい中で、顧客は製品性能に加えて、導入後のサポート体制や緊急時の対応スピードを重要な判断基準としている傾向にあります。継続的に高品質な価値提供を実現するアフターサービスが、重要な競争力として注目が高まっているのです。

「イネーブリングサービス」という新しい発想

イネーブリングサービスとは、システムやサービスが円滑に機能するために不可欠なサポート全体のことで、顧客の事業活動が止まらないように継続的に支えるサービスです。イネーブリング(Enabling)」は、「可能にする」「支援する」という意味があります。以下で、分野ごとにイネーブリングサービスを提供する具体例をご紹介します。

医療機器

医療機器メーカーにおいては、医療機器を安定稼働させることで、「診療・診断」という価値提供を止めないことを目指します。患者の命に関わる医療機器が停止した場合、患者の治療機会の喪失や信頼関係への影響など、深刻な問題につながりかねません。診療・診断を止めないことが、最終的に「患者の命と安心を守る」「病院経営の安定化に貢献する」という、より上位の価値につながります。

物流ロボット

物流ロボット

物流ロボットメーカーにとって、倉庫内の搬送ロボットを止めないことは、「出荷遅延を防止」でき、顧客からの信頼を維持するうえで不可欠です。物流業務においては、ロボットが停止するとライン全体の停止や納期遅延、誤配送などが発生する可能性があり、これは顧客満足度の低下や追加コストの発生に直結します。

イネーブリングサービスへの転換は、物流プロセスの安定稼働を支え、結果として「サプライチェーン全体の効率化と信頼性向上」に貢献します。

ITインフラ/サーバー

ITインフラサービスにおいては、サーバーを止めないことで、顧客の「ECサイトでの販売機会」や「データに基づいた経営判断」を支えます。サーバー停止は直接的な売上損失を及ぼすだけでなく、顧客データの蓄積停止やリアルタイム分析の中断など、事業活動に関わる重要な機能に影響するでしょう。これらの機能を止めないことが、顧客の事業活動に直接的に貢献することにつながります。

この転換は保守部門のKPIにも変化をもたらす可能性があり、「顧客の機器の稼働率」や「顧客の事業成果への貢献度」が新たな評価軸になるため、アフターサービスの在り方が見直されています。

DXが実現する「プロアクティブ(予防的)保守」への転換

DXの活用により、従来の事後対応型保守から予防的保守への転換が可能になります。顧客の事業継続を支える戦略的なパートナーとしての役割を担い、事前対応によってサービス停止を防ぐ仕組みを構築することが重要です。プロアクティブ保守への転換には、以下のような視点が不可欠です。

顧客ビジネスの深い理解

プロアクティブ保守の第一歩は、顧客のビジネスプロセス全体を深く理解することです。具体的には、データ分析、定期的なヒアリング、顧客の現場訪問といった方法があります。顧客と率直な意見交換ができる関係性を築いたうえで、データから見える情報とデータだけでは把握できない現場の実情を理解することが重要です。

事前対応とインパクトの把握

顧客の事業活動に基づき、機器停止が発生した場合の損失額(機会損失)を定量的に算出し、顧客と共有します。例えば、製造ラインが1時間停止した場合の売上機会損失、納期遅延による取引先への影響、緊急対応のコストなどを具体的に計算します。事前対応による投資対効果を明確に示すことで、事前投資の重要性を顧客と合意形成できるのです。

プロアクティブな体制の構築

予防的保守を実現するための具体的な技術として、IoTセンサーによる状態監視、AIによる故障予兆検知、デジタルツインなどが活用されています。

IoTセンサーは、機器の振動、温度、音響などのデータをリアルタイムで収集し、正常稼働時のデータパターンにはない異常な兆候を早期に検知する仕組みを構築します。AIによる故障予兆検知では、過去の故障事例、メンテナンス履歴、環境条件などのデータを機械学習により分析し、故障の可能性が高い状況を事前に予測します。デジタルツインでは、機器の状態をデジタル空間で再現して、部品劣化の進行や故障による影響などを仮想的に検証します。

リアルタイムでの稼働見守り

遠隔監視システムによって技術者が顧客の機器を24時間体制で見守り、異常の兆候を即座に発見する体制を構築します。機器の稼働状況をリアルタイムで監視しながら、万が一アラートを発した場合に技術者はアラートの内容を分析し、状況に応じて適切な対応を指示します。単なる指示待ちの業者ではなく、顧客の事業成長のために改善提案を行う存在になることが重要です。

イネーブリングサービスがもたらす企業側のメリット

イネーブリングサービスへの転換は、サービス提供企業にとって多面的なメリットをもたらし、持続的な成長を支える好循環を生み出します。

① 新たな収益源の創出

収益率

稼働率保証サービスなどの高度な保守契約への転換により、安定した収益モデルを構築できます。従来の「故障したら対応する」という都度収益型のモデルでは、顧客との関係が単発的になりがちでした。しかし、イネーブリングサービスへの転換は、一定水準以上の稼働率を保証することで顧客との長期契約につながりやすく、サービス提供企業にとって継続的な収益源となります。また、顧客の事業が成長すればサービスの需要も増え、事業拡大につながることも期待できます。

② 顧客ロイヤルティの向上

単なる製品の提供から、顧客の事業成功に直接貢献する存在となることで、顧客との関係性はより深く長期的なものになります。これにより顧客ロイヤルティの向上が期待でき、新製品の導入、追加サービスの利用、他部門への展開などの機会も増加するでしょう。結果的に、競合他社への切り替えリスクや解約率も大幅に低下します。

③ 製品開発へのフィードバック

イネーブリングサービスへの転換は、製品開発へのフィードバックを得るのに非常に効果的です。顧客と継続的な接点を持っているため、現場の稼働データから得られた知見やリアルタイムの現場の声を収集し、次期製品の設計や改善に活用することができます。このようにサービスと開発の連携が強化されることで、市場ニーズを考慮した製品設計が可能となり、トータルコストの削減や顧客満足度の向上にもつながります。

④ 従業員のモチベーション向上

従来の「修理サービス」から「顧客の成功を支えるパートナー」へと役割が変わることで、従業員が自社サービスに誇りを持てるようになります。単純な修理作業だけでなく、より高度で創造的な業務に従事することで、自身の業務が顧客の事業成功に直接貢献していることを実感できます。結果として、さらなる生産性向上や従業員満足度の向上が期待できます。

未来の製造業を支える、新しいサービスの形

製造業におけるアフターサービスの変革は、一企業の競争力向上にとどまらず、製造業全体の未来を切り拓く重要な一手といえます。単なる障害対応にとどまらず、顧客の業務やサービスを継続的に支援する姿勢が、信頼の構築と長期的な収益確保につながります。

JBサービスでは、製造業におけるアフターサービスの転換をテーマに、保守をイネーブリングサービスとして捉える視点と実践方法をまとめたホワイトペーパーを公開しています。「現場で実践するための具体的なステップ」や「成功企業の事例」を交えて詳しく解説しているため、ぜひホワイトペーパーをダウンロードのうえご覧ください。

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