BCP対策とは?事業継続計画の基礎知識
更新日 : 2021年05月03日
企業は自然災害やセキュリティインシデントなどさまざまな脅威から会社・従業員を守らなければなりません。経営者や情報システム管理者が中心となって行うべき対策の一つに、BCP(事業継続計画)があります。
しかしながら、2019年に帝国データバンクが公表した調査結果によると、すでにBCPを策定している企業は全体のわずか15%となっています。策定していない理由には「策定に必要なスキル・ノウハウがない」「策定する人材を確保できない」などが挙げられており、BCPに関する知識を持った人材がいないことが大きな障壁となっていることが伺えます。
そこで今回は、万一の事態に備えて企業として整備しておきたいBCPと、その策定・運用に関する基礎知識をご紹介します。
BCP(事業継続計画)対策とは
BCPとは"Business Continuity Plan"の頭文字を取った言葉で、「事業継続計画」を意味しています。
台風や地震をはじめとする自然災害や火災などが起こった場合、企業の操業率が大幅に落ち、事業の継続が困難になることがあります。中核となる事業が継続できないままでは顧客からの信用を徐々に失うこととなり、特に中小企業では倒産する可能性も否めません。感染症のパンデミック、テロ、リコール、大規模なシステム障害、セキュリティインシデントなどが起こった場合も同様です。
このような緊急事態が起こった際に事業への損害を最小限にとどめるよう、企業の中核となる事業を継続もしくは早期復旧させるための方法や体制などを取り決めたマニュアル(=BCP)を策定したり、緊急時を想定した訓練をしたりすることをBCP対策といいます。
BCP対策と防災対策の違い
BCP対策に似た言葉として、防災対策という言葉があります。両者には重複する部分も大いにありますが、いくつかの違いもあります。
まず、一般的な防災対策は、人命や建物、機材などの資産を守ることに重点を置いたものです。対してBCPは、災害における初動対応こそ従業員や顧客の生命の保護が最優先ではあるものの、基本的には主に事業継続に重きを置いています。
そのため、BCP対策は有事の被害を軽減するための対策だけでなく、特に重要な事業を選定する、サプライチェーン観点の対策をするなどの、従来の防災対策とは異なる視点での対策が必要となります。
BCP策定・運用の流れ
では、BCPはどのように策定し、運用すれば良いのでしょうか。
BCPの策定・運用は大まかに下記のような流れで行われます。
1.優先して継続・復旧すべき中核事業を特定する
会社の存続に関わる重要な事業を、利益や顧客関係などを考慮の上で洗い出します。その事業を存続させるために、人材・設備・情報システムなど何が必要かも明確にすることも必要です。また事業の目標復旧時間も決めておきます。 |
2.中核事業がどれくらいの被害を受けるか考える
中核事業が地震や台風などによって実際にどのような被害を受けるか、中核事業に必要な建物や情報システムなどの資源にどれくらいの影響があるかを具体的に想定します。目標時間内に機能が回復するもの/しないものをできるだけ区別しておくことで、後述の代替案を検討できます。
3.損失を分析する
情報システムなどの資源を復旧するための費用など、損失を具体的に計算します。中小企業の場合は、政府の金融機関や保証協会からの災害復旧貸付制度や保証制度などをどのように使えるかも検討しましょう。
4.事業継続のための代替案を用意する
情報連絡の拠点となる場所や、臨時の従業員、情報システムのバックアップなど、中核事業の資源の代替案を検討します。
5.計画を策定する
分析を元に対策を検討・実施します。対策には大きく分けて、避難計画の策定や従業員への周知といったソフトウェア面、建物の耐震化やサーバーの二重化などハードウェア面の2つがあります。
6.従業員への教育、社外への周知
全ての従業員へBCPについて周知し、継続的に訓練を実施するフェーズです。また顧客や協力会社、会社の所在地域の自治会などと、災害時の協力体制について話し合いましょう。
なお、BCPは運用と改善を繰り返し、随時最新に保つようにしてください。
BCP対策を行うメリット
BCP対策は緊急時における事業の維持・早期復旧のほかに、下記のようなメリットもあります。
企業価値を高める
BCPの運用を適切に進めることができれば、取引先や株主、消費者などから「事業継続のための対策ができている、災害に強い企業」と評価されることになり、結果的に企業価値を高めることになります。。 |
企業同士・地域で助け合い、信用を得ることができる。
緊急時においては、被害の少ない企業が困っている企業や地域住民を助けるといったように、企業が人道的・社会的な行動をするシーンも少なくありません。取引先や協力会社と事前に示し合わせておくことで、支払いの猶予、値上げはしないなど、緊急時であっても商取引のモラルを守り、企業間で相互に信用を獲得できます。
中長期的な経営戦略へつなげることができる
BCPにおいて優先すべき中核事業を絞り込み、必要な資源を洗い出す過程は、見方を変えれば経営戦略を練ることです。BCPは事業の継続とともに、中長期的な経営戦略の立案に役立てることができます。
まとめ
今回は、企業が緊急時にも可能な限り事業をストップさせず維持し、早期の復旧・再稼働に務めるための「BCP(事業継続計画)」に関する基礎知識をご紹介しました。
BCP対策を行うことによって、災害時やセキュリティインシデント発生時の事業継続・早期復旧に備えることができるほか、企業価値の向上などのメリットも得られます。
BCPの策定・運用をするにあたっては、いずれのフェーズでも最終的には経営者の判断が必要です。情報システム管理者は経営者にリーダーシップを取ってもらうよう、BCPの策定・運用を進めていきましょう。