「ものづくり白書2018」にみる製造業が直面する課題と対応策とは?①
更新日 : 2019年07月18日
安倍内閣の経済政策(「アベノミクス」)の効果が現れ、経済は着実に上向いてきています。企業収益も過去最高水準まで上昇し、株価の回復、円安の動向、雇用改善により失業率がボトムライン付近になっていることからも確認できます。 売上増加⇒給与上昇⇒消費の増加⇒...と確実に「経済の好循環」が生まれ始めています。
しかし、日本の製造業界はグローバル化対応、高品質・低コスト・短納期化、IoTやAIを利活用した「インダストリー4.0(
今回は、経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省が共同で発行している「ものづくり白書 2018年度版」をもとに、製造業が直面している課題とその対応策についてをご紹介します。
出典:「2018年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)」(経済産業省) (https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2018/index.html)
日本の製造業が直面する4つの危機とは?
2018年版ものづくり白書・総論では、日本の製造業は変革に対応するにあたり、経営者が共通認識として持つべき4つの危機感として以下を掲げています。
①人材の量的不足に加え質的な抜本変化に対応できていないおそれ
(例:人材スキル変化、デジタル人材不足、システム思考)
企業は人なり、という言葉が示す様に、人材失くして企業は立ち行きません。しかし、少子高齢化による労働人口の減少により、ものづくり産業においても、技能人材をはじめ人手不足が深刻化しています。また、これらロボットや IoT、AI などの先進ツールの利活用を特徴とする第四次産業革命が進む中、期待されるスキルも大きく変質し、デジタル人材の圧倒的な不足は喫緊の課題となっています。新たなビジネスモデルへの転換を含め、抜本的な変化を実現するためには、システム思考的なアプローチの強化が重要です。
② 従来「強み」と考えてきたものが、変革の足かせになるおそれ
(例:すり合わせ重視、取引先の意向偏重、品質への過信)
日本の製造業は、「すり合わせ(インテグラル)」を重視してきました。テレビドラマ化され話題となった「下町ロケット」で描かれていたように、取引先が部品やモジュールを独自に設計し、互いに調整しながら組み合わせていくことで、高品質な製品を作り上げていくプロセスが、長年日本の製造業の強さを支えてきました。しかしこの手法だけに頼ると、設計・生産のコストも高くなりがちで、品質への過信から消費者視点が欠落し、製品のコモディティ化のスピードが高まる中、競争力が失われてしまう危険性があるのです。
③ 経済社会のデジタル化等の大変革期を経営者が認識できていないおそれ
(例:ITブーム再来との誤解、足元での好調な受注)
日本の製造業が取り組みの遅れを指摘されているのが、デジタル化によるビジネスモデルの転換です。顧客が求める価値は「モノの所有」から「機能の利用」や「価値の体験」へと移行しています。製造業は従来の「モノ」を提供するビジネスモデルから、IoTやAIによって得られたデータから生み出される「コト(価値)」を提供する、新たなサービスビジネスモデルの構築、すなわち「製造業のサービス化」が求められているのです。
世界では多くの企業がデジタル投資に邁進し、バリューチェーン全体の最適化に向けた競争を進めていますが、日本では単に "2000 年前後の IT ブームの再来"と誤解されているなど、必ずしも、デジタル化のもたらす本質的な産業構造、社会構造へのインパクトが理解されていないおそれがあります。
④ 非連続的な変革が必要であることを認識できていないおそれ
(例:自前主義の限界、ボトムアップ経営依存)
変革が求められる現在においては、過去の常識や成功体験にとらわれず、経営者自らがリスクを負って新しい試みに果敢に挑戦し、イノベーションを生み出していくことが必要です。しかし、日本の多くの企業ではどうしてもボトムアップ型の企業経営から脱することができず、企業としての全体最適化へのアクションが遅れているのが現状です。また従来のように全て自前で技術や製品やサービス、人材などをまかなっていくにも限界が来ていると言えるでしょう。全て「自前主義」にこだわれば、真の「競争」に参画する機会すら逸しかねません。
まとめ
白書は、このような危機感を日本の製造業の全ての経営者が共通認識として持ち、経営主導であらゆる変革への対応を積極的に進めていくことが重要であると報告しています。
しかし「変革の必要性」を認識しているが、何から手を付けてよいか分からないという企業が大多数です。変革に必要なものは、異質な「知」です。自社以外の知・技術・ノウハウが入れば、変化のきっかけをつかめる可能性があります。社内になければ、アウトソースや外部の力を借りるというのも1つの方法ではないでしょうか?
次の記事では、深刻化する人手不足の中での現場力の維持・強化、デジタル人材育成対策などについてご紹介します。