「ものづくり白書2018」にみる製造業が直面する課題と対応策とは?②
更新日 : 2019年07月18日
近年、日本の製造業は2つの大きな環境変化に直面しています。一つは「人材不足の深刻化」、もう一つはデジタル技術の進展 に伴う「第四次産業革命」であり、データ活用による「付加価値の創出と最大化」向けた取組が求められています。日本の製造業独自の強みである「現場力」を維持・向上しながら、これらの変化に対応できる強い組織をつくっていくことが、経営者の最重要課題と言えるでしょう。
今回は、経済産業省、厚生労働省、文部科学省の3省が共同で発行している「ものづくり白書 2018年度版」をもとに、現場力の維持・強化、デジタル人材等の人材育成対策ついてご紹介します。
出典:「2018年版ものづくり白書(ものづくり基盤技術振興基本法第8条に基づく年次報告)」(経済産業省) (https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2018/index.html)
人手不足が進む中での生産性向上の実現に向け、「現場力」を再構築する「経営力」の重要性
人手不足の現状と人材確保対策について
経済産業省が 2017 年 12 月に実施したアンケート調査によると、94%の企業が人材確保に課題があり、さらに3割強の企業においてはビジネスにも影響が出ていると回答しています。企業規模や業種を問わず、年々、人手不足は相当 深刻な課題となっており、その対策の実施は待ったなしの状況であることがうかがえます。
このような状況を踏まえ、人材確保対策について実施した調査によると、人材確保に向けて最重視している取組は、現在・今後のいずれにおいても「新卒採用の強化」となっており、若手人材の確保・育成に重点が置かれている一方、 現在から今後の変化に着目すると「自動機やロボットの導入による自動化・省人化」や「IT・IoT・ビッグデータ・AI などに よる生産工程の合理化」などが大幅に増えており、今後の人手不足対策としてデジタルツール活用が期待されていることが分かります。
デジタル人材の必要性と確保
しかし、デジタルツールの活用が期待される一方で、専門的なスキルのある人材が量・質両面から不足していることも白書では報告されています。アンケート調査によると、デジタル人材が必要と考える企業は、全体の約6割あるものの、企業全体の3/4が、「質・量とも充足できていない」と回答していることを危惧しています。ところが、日本の経営者は米国や中国・香港などに比べて人材獲得に向けた取組の実施率が著しく低く、取組がまだまだ消極的であることも報告されています。また会社組織でみると、デジタル・IT責任者が頻繁に経営参画する企業の割合は半数を割っており、白書は「経営層のコミットが課題」と分析しています。デジタル人材の育成については、検定制度や職業訓練、政府の補助が受けられる講習会などが白書で詳しく紹介されているため、積極的に利用してみるべきです。また、必要となるリソース(技術、人材、資金など)を全てを自前で確保するのではなく、外部リソースをうまく活用することも有効な解決策です。
人手不足・デジタル革新下での品質管理の在り方
日本の製造業は長年、現場の努力により「日本の製品は非常に高品質である」という支持や評価を受けてきましたが、品質管理の在り方もデジタル革新が求められています。
2017年10月以降、製品検査データの改ざん・ねつ造などの不正事案が相次いで発覚しました。品質保証体制を強化するにも、現場に任せるのではなく、デジタル技術を導入し、製造データを利用したトレーサビリティシステムなど、人の手を介さない「ウソのつけない仕組み」を構築していれば、未然に防止できた面もあると考えられています。
形や道具だけをそろえれば済むといったことではなく、信頼性の高い品質保証体制の構築に向けて、経営者がどれだけ腰を据えて取り組むかが成功の鍵を握ると言えるでしょう。
人手不足、デジタル革新下での現場力の再構築
白書は「ロボットやIoT、AI等の先進的ツールの利活用の進展が期待される」と同時に「付加価値の高い仕事へのシフトを進める人材育成や、多様な働き手の潜在能力を引き出す働き方改革も期待される」と分析しています。従来日本の製造業の強みとされてきた 「カイゼン」や「すり合わせ」にも通じる「現場力」から、デジタルデータを活用した「新しい現場力」(データ活用・知見のデジタル資産化など)に再構築することが必要であり、効果の最大化を図るには、従来のボトムアップ型での部分最適ではなく、「経営力」によるバリューチェー ン全体での最適化が重要であると述べられています。
まとめ
白書は人手不足・デジタル革新が進む中、課題解決に向け、経営層がリーダーシップをとり、現場力の維持・強化、デジタル人材の確保・育成を行っていくことの重要性を強調しています。ただしこれらは自社だけでは簡単に実現できるものではありません。自前主義からの脱却を図り、既にノウハウや人材を確保している企業の協力を得ることも必要です。企業同士がお互いのリソースを活用し合い、強みを最大化することによって、変化に強い新たなビジネスモデルの共創が期待できます。
次の記事では、Connected Industries実現のポイントと課題についてご紹介します。