第3回 ITIL®4の主要なコンセプト

更新日 : 2022年03月10日

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今回はITIL®4の主要なコンセプトについてお話しします。(過去の記事はこちら 第1回 ITIL®4の資格体系第2回 ITIL®4の概要

価値の提供から価値の共創へ

ITのオープン化への対応と業務の継続性を重視したITIL®V3ではITサービスプロバイダが顧客へ「価値を提供する」という一方通行の概念でした。

しかし、IoT(Internet of Things:モノがネットワークに繋がること)を始めとする、ビジネス = ITのDX革命では、自組織だけでは価値を提供できなくなりつつあり、組織を超え共に価値を創り上げる必要が出てきました。

ITIL®4では、時代に合わせ、「顧客とITサービスプロバイダが共に協力し、双方向の価値を生み出す」この「価値共創」が基本概念となりました。

それに伴い、「顧客」「ユーザー」はITIL®4では「サービス消費者」という呼び方に変わりました。

これは「モノからコトへ」すなわちサービス中心の考え方(サービス・ドミナント・ロジック)の観点でもありますね。

サービスマネジメントの要素

ITIL®V3では「サービス資産(リソース + 能力)」をサービスとして提供し、価値に変換する考え方でしたが、ITIL®4は「サービス提供物(リソース + 製品)」をサービスとして提供します。

この新しい要素を確認していきましょう。

まず、どんなビジネスでも「リソース」がベースとなります。いわゆる「ヒト・モノ・カネ」ですね。ITIL®では具体的に金融資本、インフラストラクチャ、アプリケーション、情報、人材 のことを指します。

「リソース」をベースにして「製品」を作ります。

日本語では"製造されたもの"を指す「製品」と、"売るもの"を指す「商品」は厳密に異なりますが、英語にするとどちらも「Product」になってしまいます。"もの"ではありませんが「製品」と訳されたようです。

「製品」をベースに「サービス消費者」へ提供するものが「サービス提供物」になります。「サービス提供物」はパソコンなど消費者へ譲渡される「商品」、クラウドサービス利用のためのライセンスなどの「リソースへのアクセス」、サービスデスクなどの「サービス活動」に分類されます。

これらの「サービス提供物」を「サービス消費者」が利活用し「サービス」となります。サービス活動を行うことにより、「サービス供給者」と「サービス消費者」が価値を共創して行きます。

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サービス関係

先ほどの「サービス供給者」や「サービス消費者」など価値の共創には2つ以上の組織が連携しますね。この連携をITIL®では「サービス関係」と呼んでいます。一般的にはバリューチェーンのことになります。

現在の複雑なITの場合、様々な組織が絡み合う状態になるので、あるサービスでは立ち位置が「サービス消費者」だったのに、異なるサービスでは、「サービス提供書」の立場になっているということもあり得ます。サービス関係で継続的な価値の共創を確実にします。

新幹線に乗って、東京駅に着いた。快適で良かった。

ITIL®でのサービスの定義は

「顧客が特定のコストおよびリスクを管理することなく、望んでいる成果を得られるようにすることで、価値の共創を可能にする手段である」です。

解釈すると「サービス提供者」は「サービス消費者」が成果を達成することをサポートし、「サービス消費者」が負うリスクとコストの一部を肩代わりします。という感じですかね。

ここで用語のおさらいをしておきましょう。例えば、「新幹線に乗りますサービス」で考えてみます。

サービス提供者: JR

サービス消費者:自分

「新幹線に乗って、東京駅に着いた。快適で良かった!」

「成果」とは「サービス消費者」が望む「結果」のことです。

今回の場合、ITIL®でいう「成果」は「快適で良かった!」になります。なんかちょっと違う気がしますよね?「東京駅に着いた。」が「成果」と思われるのですが、「東京駅に着いた。」は事実であり、ITIL®では「アウトプット(成果物)」にあたります。

「東京駅に着く(行く)」には新幹線以外にも、飛行機や寝台特急、在来線、高速バスなど様々です。ですから、「新幹線乗りますサービスのサービス消費者」が望む「結果」は「(新幹線が)快適で良かった!」なのです。

次に「コスト」です。

先ほどの「サービス」の定義では「顧客が特定のコストおよびリスクを管理することなく」とあります。

コストは「サービスによって消費者から取り除かれるコスト」と「サービスによって消費者に課されるコスト」の2種類があります。

「新幹線に乗りますサービス」の場合、「サービスによって消費者から取り除かれるコスト」は「サービス提供者」にあたるJRの運転手、車掌、駅係員、整備員、車両、線路、運行システム等になります。これらを「サービス消費者」が用意することは困難で、「サービス消費者」はサービスを利用した分を代金として支払います。

この利用代金が「サービスによって消費者に課されるコスト」にあたります。

最後に「リスク」です。

ITIL®での「リスク」の定義は「損害や損失を引き起こす、または達成目標の実現をより困難にする可能性があるイベント」です。リスクの定義はITIL®4で変更になっています。

「リスク」も「コスト」と同様、「サービスによって消費者から取り除かれるリスク」と「サービスによって消費者が負わされるリスク」の2種類があります。

「サービスによって消費者から取り除かれるリスク」は「新幹線に乗らなかった場合」のリスクを考えてみましょう。

例えば、車を自分で運転し、東京駅に行くならば、「渋滞で予定時間通りに到着しない」「道に迷う」「事故に遭う」などが考えられますね。

これは「新幹線乗りますサービス」を利用すれば、「取り除かれるリスク」となります。

「サービスによって消費者が負わされるリスク」は、もうお分かりですね。「新幹線が大雪で止まってしまい、閉じ込められた」「線路の点検で異常が発生し乗れなかった」などがあたりますね。

これらの「コスト」や「リスク」を天秤にかけ、バランスを考慮しながら、サービスは成り立ちます。

次回はサービスバリュー・システム(SVS)」ついて深掘りします。

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