中小企業に適用される「月60時間超の法定時間外労働の割増賃金率」の引き上げ。残業時間削減のために何をすべきか?
更新日 : 2022年09月18日
1日8時間・1週40時間を超えた法定時間外労働に対して、企業は適正な割増率を乗せた割増賃金を支払う必要があります。
2023年4月1日より、中小企業は1ヵ月60時間を超える法定時間外労働に対して、割増賃金率の引き上げ(25%→50%)が適用されます。(労働基準法第37条)。
人件費の増加につながるため、労働時間を適切に管理するなどの対策を講じるためにも、今から正しく理解しておく必要があります。
そこで本記事では、法改正の概要と中小企業が残業を減らすために何をすべきかについて解説します。
目次 |
改正労働基準法のポイント
2023年4月より「月60時間を超える時間外労働の割増賃金率」が一律50%に
長時間労働を抑制し、労働者の健康確保や、仕事と生活の調和を図ることを目的として2010年に施行された「労働基準法改正」により、大企業においては1か月60時間を超えて時間外労働をさせた場合の割増賃金率が50%以上に設定されました。
中小企業の割増賃金率については長年据え置かれていましたが、2019年に施行された「働き方改革関連法」で猶予措置の終了が決定し、2023年4月1日から、中小企業にも「月60時間以上の時間外労働について割増率50%以上の割増賃金を支払う」義務が生じることになりました。
月60時間超の残業割増賃金率の変化点(1日8時間・1週40時間を超える労働時間)
改正前 2023年3月31日まで |
改正後 2023年4月1日から |
|||
60時間以下 | 60時間超 | 60時間以下 | 60時間超 | |
大企業 | 25% | 50% | 25% | 50% |
中小企業 | 25% | 25% | 25% | 50% |
引用:引用:厚生労働省|2023年4月1日から月60時間を超える時間外労働の割増賃金率が引き上げられます
深夜労働との関係
これに伴い、1日8時間・1週40時間を超える法定時間外労働と22時~5時の深夜労働との組み合わせにも注意が必要です。
深夜時間帯に1か月60時間を超えて時間外労働をさせた場合は、 深夜割増賃金率25%以上+時間外割増賃金率50%以上=75%以上 という計算になります。
中小企業に該当する条件
中小企業に該当する条件は以下の2つあり、業種によって異なります。自社が法律が規定する中小企業に該当するかどうかは、以下の表を見て判断してください。
業種 | ①資本金の額または出資の総額 | ②常時使用する労働者 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
上記以外のその他の業種 | 3億円以下 | 300人以下 |
企業に求められる対応
従業員の時間外労働が60時間を超えてしまった場合、企業は以下の2つの対応が必要になります。
- 割増賃金率の引き上げ
超えた時間に対して、50%以上の割増賃金率による割増賃金を支払う。
- 代替休暇の活用
割増賃金率の引き上げ分(25%)の支払いに代えて代替休暇(有休)を与える。
代替休暇の時間数=(1か月の法定時間外労働時間-60)×換算率※
※換算率=月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金率-代替休暇取得時に支払うべき割増賃金率(具体的な数値は労使協定によって定めます。)
割増賃金制度の狙いと中小企業への影響
割増率の引上げはそもそも何のために実施されるのでしょうか?
時間外労働に対する割増賃金の支払は、使用者に対し経済的負担を課すことによって時間外労働を抑制することを目的としたものです。
もしこれに違反すれば、残業代未払いとして労働基準法違反となり、懲役・罰金もしくはその併科の対象となります。
残業が常態化している中小企業は、残業時間の削減を早急におこなわないと、経営に大きな影響を及ぼす可能性があります。昨今の円安により経営が苦しい企業は、最悪の場合、倒産してしまうこともありえます。
日本企業の残業時間の実態
掛け声だけでは減らせない残業時間
では、日本企業の平均残業時間は実際はどれぐらいなのでしょうか?
日本は「残業大国」と思われがちですが、厚生労働省が公開している 毎月勤労統計調査(令和4年分結果確報)※によると、全産業の所定外労働時間は10.1時間です。意外と少ないと感じられた方も多いのではないでしょうか。 一方、民間企業で転職サイトを運営するdodaが全職種15,000人に対して行った最新のアンケート調査結果※によると、残業時間は20.8時間/月と厚生労働省の約2倍になっています。 ※厚生労働省 毎月勤労統計調査 令和4年7月分結果速報 ※doda 残業時間ランキング<最新版> |
この差は、民間企業と厚生労働省による調査対象に原因があると考えられています。dodaによる調査の対象は労働者ですが、厚生労働省による調査は、対象が雇用主のため、実態を正しく捉えていない可能性があります。
働き方改革の推進やコロナ禍の影響で、テレワークによる新しいワークスタイルが浸透する一方で、仕事のオンオフの切り替えが曖昧となり、早朝や深夜、休日などの見えない残業も増えているといわれています。多くの企業が残業削減・長時間労働の解消に取り組んでいながらも、「早く帰りましょう」「今日はノー残業デーです」といった掛け声ばかりで、なかなか結果が出ていないのが現状です。
残業が発生してしまう原因とは
そもそも企業にも従業員にとっても大きな負担がかかっている残業は、なぜ発生するのでしょうか?
人材不足による業務過多
残業が発生する原因として最も多いのが、労働人口減少に伴う人材不足です。業務内容・量と、それに対応する人数のバランスが取れておらず、勤務時間内に対応しきれない、というものです。全体の業務量が変わらない状態で人手不足になると、従業員1人当たりの業務が増え、長時間の残業につながってしまいます。 |
顧客のニーズへの対応
営業職やサービス職であれば、深夜や休みの日であっても、取引先やクライアントからのクレームや緊急要請に電話やメールで対応したという経験のある方も多いでしょう。就業時間外であっても、会社の指揮命令のもとに「対応が必要」という判断がなされた場合には、時間外労働としてみなされ、割増賃金の対象となります。逆に日中は顧客対応に追われているので、デスクワークは必然的に深夜に残業するしかないとあきらめている方もいるでしょう。
残業が評価されやすい企業文化
日本の企業では、残業する人は上司や同僚から、定時に帰宅する人よりも「頑張っている」、「仕事熱心」、「責任感が強い」などと評価されるケースが多いといわれています。これが企業文化として定着すると、認めてもらいたいから残業しようと考える従業員が現れ、組織全体で長時間労働が慢性化してしまいます。
業務の属人化
特定の業務内容について、やり方や情報が社内で共有されず担当者しか把握していない状態を属人化と呼びます、属人化が進んでしまうと、他の従業員が手伝うことができず、業務が担当者に集中して長時間労働が発生したり、必要な残業なのかそうでないのかの判断もつかない事態となり、残業を減らしにくくなります。 |
無駄な業務が多い
日々の定型業務の中には、形骸化した定例会議や不必要な資料作成など、多くの無駄が存在します。「会議が多すぎて、やるべき仕事が後回しになり、残業をせざるを得ない」、「何時間もかけてまとめた資料が会議で全く使われず、無駄に残業してしまった」など、誰もが何度か経験しているのではないかと思います。
残業を削減するために何をすべきか?
それでは、実際に残業を減らすために、企業はどのような対策を取ればよいのでしょうか。
労働時間の可視化・適正管理
残業時間が多い部署に残業をなくせといっても、上記のようなさまざまな原因や事情があり、改善できません。企業が残業を減らすためにまずすべきことは、「従業員はなぜ残業しているのか?」、ひとり一人の労働時間を可視化し、業務量や内容が適正か否かを検証することです。テレワークにも対応できる勤怠管理システムの導入し、適宜労働時間に対するアドバイスや是正勧告を行えるようにすると良いでしょう。
業務の見直し・効率化
従業員が残業する理由が特定できたら、業務の見直しをしていきます。 業務が属人化しているようであれば、マニュアルを整備して誰でも対応できるようにして、業務の適正配分を行います。非効率な方法で業務に時間がかかっているようなら、RPA(Robotic Process Automation)などの業務支援ツール導入して自動化を図ることもできます。 業務効率が少しでも改善すると従業員の効率化に対する意識も高まり、適切なプロセスを求める好循環になります。 テレワークの場合は、チャットツールを利用してコミュニケーションを活発にし、効率化のアイディアを出し合ったり、メンバー間で業務の進捗を把握しあい停滞を防ぐことで、業務の生産性を向上していきます。 |
管理者の意識改革・残業時間削減の徹底
管理者層の意識が変われば、組織全体の残業が是正されることもあります。上司が部下のスキルとキャパシティを考慮して作業配分を最適化したり、上司が率先して定時退社して、部下が帰りやすいようにすることで、残業が評価されやすい風土を払拭していくことも重要です。
アウトソーシング
全体の業務量を減らすために、業務の一部を外部サービスにアウトソーシングするのも残業削減の1つの手段です。アウトソーシングのサービスをうまく取り入れることによって、新たな人材を採用するよりも早く、安価に業務効率化をすることができ、従業員の残業時間削減につながります。 電話対応業務や、保守業務など、どうしても減らせないが一定量のボリュームがある作業、従業員が行わなくてもよい作業などがあれば、積極的にアウトソーシングを活用することをおすすめします。 |
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